Interview

かわら版から考えるまちづくり、失われゆく景観とつながりを守るために

学園町住民 浜名 純さん | 更新日:2025.04.01

守るべき景観と住民の意識

このまちは、長い歴史を持つ美しい景観と、住民同士の深いコミュニティによって支えられてきました。しかし、都市開発が進む中で、景観を守る意識がますます重要になっています。特に、新しく移り住んだ住民や次世代に、このまちの価値をどのように伝えていくかが大きな課題です。

学園町には景観維持のための憲章がありますが、これは自主的なものであり、法的拘束力はありません。それでも、長年住んでいる方々の間では「憲章は守るべきもの」という意識が根付いており、住民主体の保全活動によって独自の雰囲気が守られてきました。しかし、新しい住民には十分に伝わらないこともあり、コミュニティの精神的なつながりを次世代にどう伝えるかが課題となっています。

現在の憲章には法的拘束力がないため、市場原理を優先した開発が進むケースが増えています。憲章は住民の声を反映したものですが、相続や価値観の変化により、必ずしも今の状態を維持できるとは限りません。「ある程度の法的拘束力を持たせるべきではないか」という意見も増えています。特に、高齢の住民が施設へ移ると、相続を受ける子どもたちがこのまちに住んでいないことが多く、「売れるなら売ってしまおう」となるケースが増えています。

世代交代とまちの価値の変化

日本全体の傾向として、世代交代とともにまちの価値観が変化しています。学園町も例外ではなく、新しく住む人々にまちの価値をどう伝えるかが課題となっています。

かつて、このまちは自由学園の理念を受け継ぐ人々によって形成されました。しかし、時代の流れとともに、価値観や暮らし方が変わってきています。今後は、新たなコミュニティの形を作り、住民同士のつながりを強めることが、まちの景観と環境を守る鍵となるでしょう。

具体的な対策として、新しく住む人々との積極的なコミュニケーションが必要です。例えば、「みどりのサークル」などの活動を通じて住民同士のつながりを作ることが大切です。また、若い夫婦や子育て世代に対し、「このまちで子育てをすることの魅力」を伝えることで、まちの価値を再認識してもらうことができます。

かわら版が伝える景観維持の危機

2006年に始まった「かわら版」は、まちの景観維持に対する住民意識を高める役割を果たしてきました。2008年には学園町憲章が制定されましたが、その時点で住民の間には「このままではまちが大きく変わるかもしれない」という危機感がありました。

ここ数年で開発のスピードが加速し、「今動かなければ取り返しがつかなくなる」という意識が一層強まっています。特に高齢化が進み、相続が増えることで、大きな土地が細分化される事例も出始めました。こうした現状から、自治会はこのまちを守る活動を続けています。

開発がもたらすまちの未来とスラム化の懸念

東京では「土地を売って開発される→まちの景観が変わる→価値が下がる→さらに売られる」という悪循環が続いています。特に、広い土地が細分化され小さな住宅が密集すると、まちの雰囲気が変わり、住み心地が悪くなる可能性があります。

無計画な開発が進むと、景観が変わるだけでなく、治安の悪化や空き家問題といった課題も生じます。空き家が増えると管理が行き届かなくなり、防犯面でも問題が生じます。このような状況が続けば、まちの質が低下し、結果としてスラム化のリスクが高まるのです。

このまちを守るためには、相続を受ける世代に対して、このまちの価値や理念を伝える努力が必要です。例えば、「この業者ならば、緑を残しながら適切な開発ができる」といった提案ができるような仕組みを作ることも、無秩序な開発を防ぐ手段となります。

これからのまちづくりに向けて

日本全体で人口が減少している今、一つひとつのまちの価値を高めることが求められています。学園町がモデルケースとなり、全国に「こうすれば豊かな暮らしができる」という事例を示すことができれば、他の地域にも良い影響を与えられるでしょう。

私たちが目指すのは、よそ者を排除する閉鎖的なまちではなく、多様な価値観を受け入れ、誰もが心地よく暮らせる開かれたコミュニティです。新しく移り住んできた方々を温かく迎え、このまちの歴史や価値を伝えること。それが私たちの使命です。

田舎特有の閉鎖的な関係ではなく、住民一人ひとりが大切にしていることを尊重し合える環境をつくること。このまちが持つ魅力を次の世代に引き継いでいけるよう、これからも活動を続けていきます。

このまちの良さを守るためには、住民が一体となって取り組むことが欠かせません。「まちの価値を知り、それを次の世代に伝えること」——その意識を持つことが、これからのまちづくりにとって重要なのではないでしょうか。