ネイバーフッドデザインとは?
ネイバーフッドデザインとは、徒歩15分圏内の人々のつながりを通じて、助け合いや楽しみを生み出すという考え方です。私たち「HITOTOWA」では、この考え方をメイン事業として展開しています。
近年、コミュニティデザインが広がる中で、特に「ネイバーフッド」という視点が重要ではないかと考えるようになりました。海外でも「ネイバーフッドデザイン」という言葉はありますが、それは主にハード面の整備を指します。しかし、私はそれだけではなく、ソフト面―つまり、人々の暮らしやつながりが失われつつあると感じ、それを再創造したいと思ったことが事業化の理由です。
大学卒業後にディベロッパーに入社し、住宅開発に携わったことが、私がこの課題に向き合うきっかけとなりました。住宅開発にはまちを「つくる側面」もあれば、「壊す側面」もあります。特に、受け継がれる歴史やコミュニティの継承が失われていくことに疑問を持ち、そうしたものを引き継ぎながら再活性化できないかと考えたのが出発点でした。
地域ごとに求められるつながりの形も異なります。医療福祉のつながりが重要な地域もあれば、子育てや学び合いの場が求められる地域もある。それぞれの地域に応じたつながりを設計するのがネイバーフッドデザインの考え方です。

変化する地域との向き合い方
私たちの役割は、まちの本質的な価値を見極め、住民の主観と外部の視点を掛け合わせながら、持続可能な形にすることです。どのような要素を切り取るかによって、人々がまとまったり、楽しめる場が生まれたりします。
必ずお隣と仲良くしなければならないわけではなく、つながりの選択肢を持てることが重要です。例えば、伝統的な自治会に参加する人もいれば、別の形のコミュニティに関わる人もいる。その多様性を尊重することが、ネイバーフッドデザインの本質です。
また、必ずしも毎週誰かと会う必要はなく、楽しそうなイベントにだけ参加する形でも良いのです。自分の好きなことや楽しいことがまちに溢れていたら、きっと誰もが嬉しいはず。その実現に向けた行動が、個人レベルでもできることを知ってほしいですね。

「帰る場所」とは何か?
日本人はいつからか、自分の故郷に対する意識が薄れ、「根なし草」的な存在になってしまいました。それが社会的孤立や幸福度の低下につながっているのではないかと考えています。
まちの特徴や個性が失われると、愛着や誇りを持ちにくくなり、「帰る場所」がないと感じるようになります。いわゆる「シビックプライド」の喪失です。まちに対する愛着や誇りが、「居場所」や「帰る場所」という感覚につながるのではないでしょうか。そんな、愛着や誇りを持った大人と子どもたちが触れ合う機会が少なくなっていることも影響していると感じます。
学園町らしさとは、単なる風景や緑の豊かさ以上に、ここで生まれ育った人々や、ここに通う子どもたちにとっての「大切な場所」であることが重要です。「この場所はいいな」「ここで育ってよかった」と思ってもらえることが大切です。
学園町では、都市の中にぽっかりと存在する緑豊かな住宅地というアイデンティティを持っています。このような環境は、都市における貴重な存在であり、将来的な人口減少や環境問題を考えたときにも、大きな役割を果たすのではないでしょうか。

持続可能なまちづくりの挑戦
風景の継承という点では、この学園町もかなり危機的な状況にあると感じています。普通に暮らしているだけでは難しい部分があり、自治会でも環境対策委員がまちづくり委員となり活動しています。
学園町憲章は現在法的拘束力を持たない理念ですが、今後はルール化を進める方向です。そのためには住民との合意形成が不可欠であり、歴史や生活文化を考慮しながら調整を進めています。また、歴史的建造物の保存や象徴的な建物の創出も選択肢の一つです。新規開発においても学園町の景観を守る最低限のルールを設ける必要がありますが、これには時間と住民の協力が求められます。

個人の小さなアクションがまちを変える
まちづくりは特別な人だけの役割ではなく、誰もが「楽しそうなことに参加する」ことから始められます。例えば、地域のイベントで買い物をすることや、「こんな店があればいいな」と思うことも、まちの未来を支える一歩です。文化を根付かせるには、イベントや環境整備などの投資が必要で、まずは「楽しい」と感じられる機会を提供し、地域とのつながりを自然に生み出すことが大切です。
学園町では自治会やボランティア活動が行われていますが、すべてを担うには限界があり、まちのアイデンティティを守ることが最も重要な課題となっています。そのためには、生活者が気軽に関われる仕組みをつくることが必要です。また、まちの景観や課題が顕在化している中で、より積極的なムーブメントが生まれることが望まれます。
ルールの整備も大切ですが、それ以上に、まちの文化や暮らし方をどう継承していくかが本質的なテーマです。近年では、子育て世代による地域間の交流も広がりつつあります。重要なのは、閉じたコミュニティを作るのではなく、守るべき価値を可視化し、それに共感する若い世代が自然と集まる流れを生み出すことです。そうした中で、新たな文化や象徴的なものが自発的に生まれるまちになることが理想的と言えるでしょう。